「弓を買って帰ってきたら、私に声を掛けてくださいね」
そう言うルルモアさんに見送られながら僕たちは冒険者ギルドを出て、ニコラさんたちの弓を買うために武器屋さんに向かう事にしたんだ。
「僕、武器屋さんに行くの初めて」
「ああ、そう言えばこの間もルディーンはシーラたちと一緒に行動していたな」
こないだイーノックカウに遊びに来た時って、お父さんとお兄ちゃんたちは武器屋さんや防具屋さんを見に行ったでしょ?
でも僕はお母さんやお姉ちゃんたちとお菓子屋さんに行ったもんだから、武器屋さんには行った事が無いんだよね。
「うん。だからとっても楽しみなんだよ」
そんなお話をお父さんとしながら歩いてたらね、あっと言う間に武器屋さんについちゃったんだ。
「「こんにちわ!」
初めての武器屋さんに大興奮の僕は、真っ先に中に入ってったんだよ。
そしたらね、壁にいっぱい剣とかヤリとかがかけてあったもんだからすっごくびっくりしたんだ。
だってさ、僕、こんなにいっぱいの武器、一度に見たの初めてだったんだもん。
「お父さん、武器がいっぱいあるよ!」
「それはそうだろう。ここは武器屋なんだから」
だからお父さんに武器がいっぱいあるよって言ったんだけど、そしたら当たり前だろうって。
そっか、そうだよね。
だってここ、武器屋さんなんだもん。
そんな当たり前の事を思いながらお店の中を見てたらね、壁だけじゃなくってお店のふちの方におっきな樽に入ってる武器がある事に気が付いたんだ。
「お父さん、あそこ。案も樽の中にある武器、何で壁に飾ってないの?」
「ん? ああ、あれか。あれは溶かした鉄を型に流し込んで作っただけの安物だからだよ」
グランリルの村では、剣や槍は鍛冶屋さんがトンテンカントンテンカンってして作るでしょ?
でもあそこにある武器は溶かした鉄を型に流して、余分なとこを削って作ったもんなんだって。
「俺たちが使っている武器は鍛冶屋が鍛えた鋼のインゴットから作られているんだ。でもな、それだとかなり値段が高くなってしまうから、お金のない内はああいう鋳物の武器を使う事もあるんだよ」
お父さんに教えてもらったんだけど、僕たちの武器を作るのに使う鋼のインゴットってのは、鉄が入ってる石と石炭を砕いたのを混ぜてから魔道具に入れると、そこから溶けた鉄が出てくるんだって。
でね、それが固まってからもういっぺん真っ赤になるまであっつくしたのを、今度は鍛冶屋さんがトンテンカントンテンカンするとインゴットができるそうなんだよ。
それに底から剣を作ろうと思ったら、そのインゴットをまたあっつくしてトンテンカンしないとダメだもん。
だから出来上がるまでにすっごく時間がかかっちゃうけど、でもあの樽の中に入ってる武器は最初にあっつくして溶かした鉄をそのまんま型に流し込んだだけでしょ?
そりゃあ余分なとこを削ったり磨いたりしないとダメだけど、それでも僕たちが使ってるのよりも簡単にできるからすっごく安いんだってさ。
「ただ安い分折れやすいから、動物相手ならともかく、魔物相手にあれを使うのは自殺行為だがな」
「そっか、魔物の皮は動物のより硬いもんね」
僕ね、最初に聞いた時は早く作れるんだったらそっちの方がいいんじゃないかなぁって思ったんだよ。
でもそれだと折れやすくって魔物相手だと危ないんだよって、お父さんに教えてもらったでしょ?
だから僕たちの村の武器は、鍛冶屋さんがちゃんとトンテンカントンテンカンして作ってくれてるんだねってうんうん頷いたんだ。
「それはそうと、どうやらニコラって子の弓を選び終わったみたいだぞ」
僕とお父さんがそんなお話をしてる間にね、お母さんがニコラさんの弓を選んであげたみたい。
だからお母さんたちの方を見たんだけど、
「あれ?」
そしたらニコラさんが、あんまりおっきくない弓を持ってたもんだからびっくりしたんだ。
ニコラさんはすっごくおっきいのに、あんなちっちゃな弓矢でいいのかなぁ?
そう思った僕は、お母さんにそれでいいの? って聞いてみる事にしたんだ。
「お母さん、ニコラさんが持ってるの、レーア姉ちゃんの弓とあんまり変わんない大きさだよ。あれでいいの?」
「ああ、そう言えばルディーンは使わないから、弓の選び方を知らないのね」
お母さんが謂うにはね、大事なのは弓の大きさじゃなくって、それを引いた時にどれくらい弦が伸びるかなんだって。
「弓は持った方の腕をこうやって軽く伸ばして使うでしょ? だからそこを基準にして、弦を引いた手がちょうど自分のあごの位置に来るものを選ぶといいのよ」
弓って見た目がおんなじでも、しなり方とか張った弦の強さとかが全然違うんだって。
だからおんなじくらいの大きさなのに体の小さいレーア姉ちゃんの弓はあんまりしならないけど、今ニコラさんが持ってる弓はすっごくしなるんだってさ。
「百聞は一見にしかず。ニコラさん、試しにその弓を引いてみてくれるかな?」
「はい、解りました」
そう言われたニコラさんは、試しにお母さんが選んでくれた弓を引いてみたんだよ。
そしたらさっき言ってた通り弓がすっごくしなって、弦がニコラさんの目のとこよりちょっと後ろまで伸びたんだ
「う〜ん、構えとかは後で教えるとして。どう、引いてみて? 張りが強すぎたり弱すぎたりしない?」
「えっと、少し弱い気がします」
「そう。思ったよりも力持ちなのね」
お母さんはそう言うとね、違う弓を壁から取ってニコラさんが持ってるのと交換したんだ。
「こっちの方が少し強い素材が使われているんだけど、どうかな? 後、弦をつまむんじゃなくって人差し指と中指を引っかけるようにして……そう、そんな感じで引いてみて」
「ほんとだ、こっちの方が引きやすいし、弓の強さもさっきのよりこちらの方がいいみたいです」
今度の弓はさっきのよりよかったみたいで、ニコラさんは何度も弦を引っ張ったり緩めたりしてるんだよ。
それを見たお母さんはこれなら大丈夫そうねって言った後、今度はユリアナさんとアマリアさんの弓も選んであげたんだ。
「3人とも、その弓でいいかしら?」
「はい、ありがとうございます」
でね、二人にも弦を引いてもらってあってるかどうかを確かめたら、お母さんはお店の人にこの3本をくださいなって言ったんだよ。
「あと、今は必要ないけど、予備知識としてロングボウとその防具の事も教えておくわね」
お母さんが村で使ってるみたいなおっきい弓の時はね、いまみんなが持ってるショートボウと違って弦を後ろの方まで引くから、女の人は胸に当たっちゃわないように専用の防具を使わないとダメなんだって。
「ショートボウは顎に当てて狙う形で撃つから要らないけど、より遠くまで飛ばすロングボウは引手の脇近くまで引くから、これみたいな胸を押さえつける専用の防具が必要になってくるの」
お母さんはおっきな弓の近くにあった胸当てを手に取って、ニコラさんたちに見せたんだよ。
「あなたたち3人で言うと、体の大きなニコラさんは多分前衛だから使う事は無いと思うわ。でも他の二人は弓の適性があったならどちらかがロングボウに持ち変えるのも視野に入れた方が狩りがスムーズになるかも」
「なるほど、一人は後衛にした方が狩りがやりやすくなるんですね」
「ええ。魔物へのけん制にもなるし、何よりロングボウはショートボウよりも遠くの獲物を狙う事ができるからね」
3人とも弓が使えるようになったら、まず一人がロングボウで遠くの獲物に矢を当てたら余裕をもって狩りができるでしょってお母さんは笑うんだ。
「でもロングボウは遠くまで飛ばせる分、ショートボウより当てるのが難しいの。だから今はとりあえず、このショートボウを動きながらでも当てられるまで練習しましょうね」
「はい!」
お母さんにいっぱい練習しようねって言われたニコラさんたちは、ビシッとまっすぐ立って、おっきな声でお返事をしたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
イメージ的に言うと、ショートボウはアーチェリーでロングボウは和弓の撃ち方をイメージした説明になっています。
これが正しいかどうか解らないですけど、昔見たファンタジー映画でロングボウをそんな感じで撃ってたんですよね。
それに女性は胸当てもつけてましたし。
まぁロングボウの撃ち方は和弓とはかなり違うようなので、厳密には同じではないんでしょうけどね。